「べしゃり暮らし」 森田先生…すごく…野球部がかませです…

 「べしゃり暮らし 全部入り」
 600円で単行本3冊分+ジャンプサイズとか作品の質を疑ってしまいそうな方法で購買意欲を誘ってくれたことに感謝すら覚えます。
 
 ファンタジーとか不条理ギャグとかとは違って、現実にありそうな面白トークとか漫才とかで読者を笑わそうとするのは綱渡りじゃああるまいか。読み手が現実のモノと簡単に比較できるテーマだし、王道の演出でいくらハッタリをかましても、肝心の本命であるギャグで素に返られてしまっては大失敗。登場人物のギャグが現実の芸人と比較して明かにつまらないのに他のキャラクターが爆笑でもしていたら全部台無しです。
 だから読んだ後、本当に良くこれほどまで「狙っていると分かりきった笑い」で笑わせてくれたと、それはもうびっくりしました。ただそれ以上に凄く大事だと思える要素があって、これなくしては例え文面だけで見れば世界最高のジョークを登場人物の誰かがかましたとしても、全て唐突に思えて読者は戸惑うほかなくなってしまうと思います。
 それは主人公の独白です。主人公は皆を沸かせた後に心の中でさっきの笑いをかみ締める。読者はそれを得て今のは笑い所だったと確認できるから、芸人の番組にチャンネルを合わせるのと同じように、笑う心構えができる。更に言えば、嬉しがっている主人公の思いに触れて感情移入ができる。確立された登場人物の細やかな心理描写のお陰で、どんな展開になっても読み手は物語についていける。読む前は本気で誤解と心配をしてたけど、やっぱりこれはギャグじゃなくてヒューマンが題材なのでしょう。というか皆に笑ってもらって嬉がっている主人公の視点で読む時点で、読者が完全に第三者となる他のそれとは明らかに一線を画していると言えます。
 
 しかし面白い。目立たない奴が少しボケるだけで周囲が沸く現象に対し「何故だ!?」と主人公が思った時なんかは、作者のプロ意識の高さに本気でドキドキさせられました。しかも主人公はその目立たない奴に素直に対抗意識を燃やしちゃう熱血ぶり。これには笑えたし、感心させられました。
 
 いやあこの頃のジャンプを知らなかった。テニスやタカヤ、ワンピースの話題ばっかり聞いてたから損をした感じ。しばらく次の単行本は出ないから、それまで同時期に噂に聞いてたネウロをじっくり揃えていよう。
 

べしゃり暮らし 5 (ヤングジャンプコミックス)

べしゃり暮らし 5 (ヤングジャンプコミックス)